
宗教改革の中で大きな影響を与えたジャン・カルヴァン(1509 - 1564)の教え。その中でも特に有名なのが「予定説」です。この考え方は、「人が救われるかどうかは、あらかじめ神によって決められている」というもの。
一見すると、「運命が決まっているなら、努力しても意味がないのでは?」と思うかもしれません。しかし、実際には商工業者たちに熱狂的に支持されました。なぜなのでしょうか? この記事では、その理由を分かりやすく解説していきます!
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まずは予定説の基本を押さえておきましょう。
予定説とは、「神はすべてを支配しており、人が救われるかどうかもすでに決まっている」という考え方です。つまり、「善行を積めば救われる」「罪を犯したら地獄に落ちる」といった単純な話ではないのです。
とはいえ、「救われる人」と「救われない人」を見分ける方法があると考えられました。それが「神に選ばれた者は、信仰心を持ち、勤勉に生きるはずだ」という考え方です。つまり、努力し成功することが、「自分が救われる者である証拠」になると考えられたのです。
では、なぜこの考え方が商工業者に受け入れられたのでしょうか?
商工業者にとって、毎日コツコツ働くことは欠かせません。しかし、中世のカトリック的な価値観では、「富を求めすぎるのはよくない」とされることもありました。
しかし予定説では、「努力し、成功することが神に選ばれた証」とみなされました。これにより、「真面目に働くことが神に認められる行為だ」と考えられるようになり、商工業者たちは安心して仕事に打ち込むことができたのです。
カルヴァン派では倹約と禁欲が重視されました。派手な生活をするのではなく、余剰の利益は投資や事業の拡大に回すべきだとされたのです。
これは商工業者にとって理にかなった考え方でした。派手な浪費をするよりも、仕事に集中し、利益を事業に再投資するほうが、結果的に経済的な成功につながるからです。
この時代、ヨーロッパでは資本主義の芽生えが見られました。商業や金融が発展し、個人の努力や能力がより重視されるようになったのです。
そんな中で、「勤勉に働けば、神に選ばれた者として認められる」という予定説の考え方は、多くの商工業者にとって魅力的に映りました。社会全体の変化ともぴったり合っていたのですね。
商工業者の間で予定説が広まったことは、後の時代にも影響を与えました。
プロテスタントの国々(予定説を信じるカルヴァン派の多い国々)は、近代に入って経済発展が進みました。オランダやイギリス、アメリカといった国々がその代表例です。
ドイツの社会学者マックス・ヴェーバー(1864 - 1920)は、「プロテスタントの勤勉な精神が、資本主義の発展を促した」と指摘しました。予定説の影響で、労働と経済活動が宗教的に正当化され、結果的に資本主義社会が生まれるきっかけになったと考えられているのです。
予定説は「救われるかどうかは神が決める」という教えですが、「成功することが神に選ばれた証拠になる」と考えられたため、商工業者に広く支持されました。また、勤勉さや倹約が奨励されたことも、商業を営む人々にとって魅力的だったのです。
さらに、この考え方は資本主義の発展とも結びつき、のちのヨーロッパ経済に大きな影響を与えました。こうしてみると、宗教の教えが社会や経済にまで深く関わっていたことがよくわかりますね。