
「宗教改革」というと、ルターやカルヴァンのような16世紀の神学者が思い浮かびますが、実はそれ以前から各国で改革の動きがありました。彼らは宗教改革の先駆者と呼ばれ、ローマ・カトリック教会のあり方に疑問を持ち、新しい信仰の形を模索していたのです。今回は、ヨーロッパ各国の宗教改革の先駆者たちを紹介します。
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ドイツではマルティン・ルターが宗教改革を主導しましたが、それ以前にも改革の兆しがありました。
ボヘミア(現在のチェコ)の改革者であり、ルター以前にカトリック教会を批判した重要な人物です。プラハ大学の教授として「聖書の教えに基づく信仰」を強調し、贖宥状(免罪符)の販売や聖職者の腐敗を批判しました。しかし、1415年のコンスタンツ公会議で異端とされ、火刑に処されてしまいます。その後、フス派の支持者たちは「フス戦争」を戦い、ボヘミアで独自の宗教運動を展開しました。
フランス出身の神学者ですが、神聖ローマ帝国の宗教改革にも影響を与えました。教会の権威よりも信仰の純粋さを重視し、後のルター派の思想につながる考え方を持っていました。
イングランドでは16世紀にヘンリー8世が国教会を設立しましたが、その前から改革の動きがありました。
イングランド宗教改革の先駆者です。「聖書のみ」を重視し、ローマ教皇の権威を否定しました。また、聖書をラテン語から英語に翻訳し、多くの人々が直接聖書を読めるようにしたのです。ウィクリフの思想は、後にルターやカルヴァンに影響を与えました。
英語訳聖書の翻訳者であり、プロテスタントの考えを広めた人物です。カトリック教会の教義を批判し、新約聖書を英語に翻訳しましたが、異端とされて処刑されてしまいました。しかし、彼の聖書は後のイングランド国教会に影響を与えました。
スイスではフルドリッヒ・ツヴィングリやジャン・カルヴァンが宗教改革を主導しましたが、その前から教会改革を求める動きがありました。
ヴァルド派の創始者であり、カトリックの権威に従わず、貧しい生活を送りながら聖書の教えを広めました。ヴァルド派はカトリックから異端とされましたが、その思想は後のプロテスタント運動にも影響を与えました。
フランスではユグノー(カルヴァン派)が台頭しましたが、その前から改革の動きがありました。
フランスの聖書学者であり、カトリック内部で改革を求めた人物です。聖書のフランス語訳を行い、民衆が直接聖書を読めるようにしました。ルフェーブルの思想はカルヴァンにも影響を与えました。
ネーデルラントでは16世紀にカルヴァン派が広まりましたが、それ以前から改革の兆しがありました。
人文主義者・神学者であり、宗教改革の「精神的な先駆者」ともいえる人物です。彼はカトリックの内部改革を求め、「自由意志」や「信仰の内面性」を強調しました。ルターとも交流がありましたが、最終的にはプロテスタントには加わりませんでした。
スペインではカトリックの影響が強く、プロテスタントの宗教改革はほとんど進みませんでした。しかし、内部改革を求める動きはありました。
スペインの枢機卿であり、カトリック教会の内部改革を進めた人物です。聖職者の教育を強化し、聖書研究を推奨しました。彼の改革はスペインにおける対抗宗教改革の基盤となりました。
宗教改革の前から、ヨーロッパ各地で教会の腐敗を批判し、聖書の教えに立ち返る動きがありました。特にウィクリフ、フス、ヴァルドなどの先駆者たちは、16世紀のルターやカルヴァンの改革に大きな影響を与えたのです。このように、宗教改革は突然起こったのではなく、長い時間をかけて準備されていた運動だったといえるでしょう。