宗教改革期の正教会ってどういう立場だったの?

宗教改革と聞くと、カトリックとプロテスタントの対立を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、ヨーロッパにはもう一つの大きなキリスト教の伝統がありました。それが正教会(東方正教会)です。

 

では、16世紀の宗教改革の時代、正教会はどのような立場にあったのでしょうか? 実は、カトリックとプロテスタントの争いから距離を置きつつも、意外な形で影響を受けていたのです。本記事では、宗教改革期における正教会の立ち位置や、その後の展開についてわかりやすく解説していきます!

 

 

正教会とは?

まず、宗教改革当時の正教会の基本的な立ち位置を押さえておきましょう。

 

カトリックとは別の伝統

正教会(東方正教会)は、11世紀の大シスマ(東西教会分裂・1054年)によってカトリック教会と決別しました。そのため、16世紀の宗教改革が始まったころには、すでにローマ教皇の支配を受けない独自のキリスト教文化を持っていました。

 

主な勢力圏は、現在のギリシャ、ロシア、バルカン半島、東欧諸国など。カトリックが西ヨーロッパを中心に広がっていたのに対し、正教会は東ヨーロッパや中東に多くの信者を抱えていました。

 

オスマン帝国による支配

16世紀の正教会は厳しい状況にありました。なぜなら、1453年のコンスタンティノープル陥落(東ローマ帝国の滅亡)によって、オスマン帝国の支配下に置かれたからです。ギリシャやバルカン半島の正教徒たちは、イスラム教国家であるオスマン帝国の支配を受けながら、なんとか信仰を守り続けていました。

 

ロシア正教会が強い

そんな中で、唯一独立した正教会を持っていたのがロシアです。モスクワは「第三のローマ」と称し、カトリックやプロテスタントとは異なる独自の正教の伝統を発展させていました。

 

宗教改革と正教会の関係

では、16世紀の宗教改革正教会はどのような関わりを持っていたのでしょうか?

 

基本的には「傍観者」

宗教改革は、もともとカトリック内部の改革運動から始まったものです。すでにカトリックと別れていた正教会は、この争いに直接関与することはほとんどありませんでした。

 

特に、ギリシャやバルカン半島の正教徒たちは、オスマン帝国の支配下にあったため、カトリックとプロテスタントの対立どころではなかったのです。むしろ、彼らにとっての関心事は「オスマン帝国がどのように宗教政策を行うか」という点でした。

 

プロテスタントとの交流

一方で、プロテスタントの一部は、正教会に親近感を抱いていました。なぜなら、正教会もローマ教皇の権威を認めておらず、「聖書の権威」を重視する点で、プロテスタントと共通する部分があったからです。

 

例えば、プロテスタントの指導者であるフィリップ・メランヒトン(1497 - 1560)は、正教会と交流し、ルター派と正教会の関係を築こうとしました。しかし、教義の違いが大きく、最終的には深い結びつきにはなりませんでした。

 

カトリックとの対立

正教会はカトリックと長年対立していました。そのため、宗教改革によってカトリックの勢力が弱まることは、正教会にとって悪い話ではなかったのです。特に、カトリック勢力が強かったポーランドやハンガリーでは、正教徒に対する弾圧もあったため、正教会にとっては「敵の弱体化」という側面もあったのですね。

 

宗教改革が正教会に与えた影響

宗教改革は、正教会の世界にも間接的な影響を与えました。

 

カトリックの「対抗宗教改革」

宗教改革によってプロテスタントが勢力を伸ばすと、カトリックは対抗宗教改革を進め、正教会にも影響を及ぼしました。特にウクライナやポーランドでは、カトリックの影響を受けた東方カトリック教会(ユニエイト教会)が生まれ、正教会と対立する場面もありました。

 

ロシア正教会の強化

ロシアでは、宗教改革の影響で西ヨーロッパの宗教勢力が分裂したことを好機ととらえ、「正教会の守護者」としての立場を強めました。 モスクワは「第三のローマ」としての自負を持ち、ロシア正教会の独立性をさらに強化していきます。

 

まとめ

宗教改革期、正教会は基本的にカトリックとプロテスタントの争いには関与せず、傍観者的な立場にありました。しかし、プロテスタントの一部からは親近感を持たれ、一方でカトリックとの対立は続いていました。

 

また、オスマン帝国の支配下にあったギリシャやバルカンの正教徒にとっては、宗教改革よりもイスラム政権との関係のほうが重要でした。一方、ロシア正教会はこの時期に独自の地位を確立し、「正教の守護者」としての立場を強めていったのです。こうしてみると、宗教改革はカトリックとプロテスタントだけの問題ではなく、正教会の世界にもさまざまな影響を与えていたのですね。