異端審問と宗教裁判の違い【宗教改革史】

異端審問宗教裁判。この二つはどちらも宗教に関わる裁判制度ですが、実は目的や運用の仕方が異なるものでした。

 

中世ヨーロッパでは、カトリック教会が信仰の純粋性を保つために裁判を行っていましたが、宗教改革が起こると、プロテスタントを取り締まる動きが強まりました。その中で異端審問宗教裁判がどのように違い、どのような役割を果たしたのかを詳しく見ていきましょう!

 

 

異端審問とは何か

異端審問は、カトリック教会が異端(カトリックの教えに反する思想や信仰)を取り締まるために行った特別な裁判制度のことです。

 

この制度は中世から続くもので、宗教改革よりも前から存在していました。主にカトリック内部の秩序を維持するために用いられ、異端とされた者には改宗を促すとともに、場合によっては厳しい処罰が科されました。

 

中世の異端審問

中世ヨーロッパでは、キリスト教の教義に反する考えを持つことは重大な問題とされました。そのため、12世紀ごろから異端審問所が設置され、異端者を取り締まる動きが強まりました。

 

特に、13世紀のアルビジョワ十字軍の後、南フランスのカタリ派などを取り締まるために異端審問制度が正式に確立されます。異端審問官はドミニコ会の修道士などが務め、異端の疑いがある者を取り調べ、改宗させることを目的としました。

 

宗教改革期の異端審問

宗教改革が始まると、異端審問はプロテスタントを取り締まる手段としても利用されるようになります。特に、16世紀には「ローマ異端審問所(聖庁)」が設立され、カトリックの教えに反する者を厳しく処罰しました。

 

この中で最も有名な例が、科学者ガリレオ・ガリレイの裁判です。彼は地動説を唱えたために異端審問にかけられ、1633年に異端の疑いがあるとして有罪判決を受けました。

 

宗教裁判とは何か

宗教裁判とは、宗教上の問題について国や教会が開いた裁判全般を指します。異端審問も宗教裁判の一種ですが、宗教裁判はより広い意味を持ち、宗教上の問題だけでなく、政治的な目的で利用されることもありました。

 

スペイン宗教裁判

異端審問と宗教裁判の違いが特に分かりやすいのが、15世紀末にスペインで行われたスペイン宗教裁判です。

 

この裁判は、カトリック教会の指導のもとで行われましたが、実際にはスペイン王権の強化という政治的な目的もありました。スペイン王フェルナンド2世とイサベル1世は、国内の宗教統一を進めるため、改宗したイスラム教徒やユダヤ教徒を監視し、異端の疑いがある者を厳しく取り締まりました。

 

ここでは、異端審問とは異なり、教会だけでなく国王の権力も大きく関与し、宗教だけでなく政治的な意味合いも持つ裁判が行われたのです。

 

異端審問と宗教裁判の違い

異端審問と宗教裁判の違いを整理すると、以下のようになります。

 

目的の違い

異端審問はカトリック教会が信仰の純粋性を保つために行ったものです。一方で、宗教裁判は国家の政策や政治的目的によって行われることもありました。

 

運営主体の違い

異端審問はカトリック教会の機関によって実施され、主に修道士や司教が審問を担当しました。一方で、宗教裁判は国王や政府が関与する場合も多く、政治的な意図が強くなることがありました。

 

対象の違い

異端審問では、主にカトリックの教義に反する信仰を持つ者が対象となりました。これは、宗教改革期にはプロテスタントが、また中世ではカタリ派やワルド派などの異端とされたキリスト教徒が対象でした。

 

一方で、宗教裁判は異端者だけでなく、王権にとって危険な存在も取り締まる手段となりました。スペイン宗教裁判では、ユダヤ人やイスラム教徒がターゲットとされ、宗教だけでなく民族や政治的な要素も絡むようになったのです。

 

宗教改革が異端審問と宗教裁判に与えた影響

宗教改革によって、カトリック教会は異端審問を強化し、プロテスタントを異端として取り締まるようになりました。特に、イタリアやスペインでは、プロテスタントの書物を禁止するなど、厳しい措置が取られました。

 

一方で、プロテスタント国家では逆にカトリックの信者を弾圧する動きが見られました。例えば、イギリスではヘンリー8世が国教会を創設した後、カトリックに忠実な者たちが弾圧されるようになりました。

 

宗教裁判も、宗教改革後は国家の統治のための手段として利用されることが増えました。特に絶対王政の時代には、国王が宗教裁判を通じて国内の宗教統一を図るケースが増えたのです。

 

こうしてみると、異端審問と宗教裁判は似ているようで、目的や運営主体が大きく異なっていたんですね! 特に宗教裁判は政治的な要素が強く、カトリックだけでなく国家の統治にも深く関わっていたのが興味深いです。宗教改革がこうした裁判制度を変えたというのも、歴史の面白いところですね!